東京高等裁判所 昭和39年(く)127号 決定
被告人 中島武士
〔抄 録〕
よつて記録を調査するに、被告人は、昭和三十九年六月二十八日「被疑者中島武士は、篠原利、太田昌明外氏名不詳の二名位と共謀のうえ、昭和三十九年六月十八日午前一時三十分頃宇都宮市今泉新町百八十五番地杉本アパート西側の国道四号線路上において、粕谷善也、石沢隆文、菱沼操を取り囲み、お前らが車に因念をつけた、と多衆の威力を示し、何等法定の除外事由がないのに不法に所持していた短刀(全長約五十糎)の峯で右粕谷の顔部を殴打し、よつて同人の上下前歯三本を損傷し全治十日を要する傷害を負わせ、右石沢、菱沼に対し短刀を示したうえ、各所携していた木棒で共同して殴打暴行したものである」旨の傷害等被疑事件について、宇都宮地方裁判所裁判官の発した勾留状の執行を受け、代用監獄宇都宮警察署に勾留され、同年七月七日右被疑事件中の短刀不法所持の事実と同一性があると認められる「被告人は、法定の除外事由がないのに昭和三十九年六月十八日頃宇都宮市今泉新町七十五番地亀泉荘アパート内の自宅で、刃渡り二十二、七糎のあいくち一本を所持していたものである」旨の銃砲刀剣等所持取締法違反の公訴事実について宇都宮地方検察庁検察官から宇都宮地方裁判所に勾留中のまま起訴され、同年七月十一日小幡町拘置支所へ移監され、同年同月二十日窃盗、暴行、賍物収受、銃砲刀剣類等所持取締法の公訴事実について右検察庁検察官から右地方裁判所に別件勾留中として起訴されたこと、右各被告事件は同年八月一日の原裁判所第一回公判期日において併合審理され、被告人及び弁護人は被告事件に対する陳述として、事実については別に争うことなく、証拠調の一部が施行され、同年同月二十八日の第二回公判期日において更に証拠調の一部が施行されたこと、右同日弁護人は原裁判所に対し被告人の保釈を請求したところ、原裁判所は、本件保釈請求は、被告人において罪証を隠滅するという疑うに足りる相当な理由がある(刊事訴訟法第六十条第一項第二号、第八十九条第四号)ときに該当し、理由がないからこれを却下する旨決定したことがそれぞれ認められる。
ところで記録によれば、前記七月二十四日起訴にかかる暴行及び銃砲刀剣類等所持取締法違反等の各公訴事実は、前掲勾留状記載の被疑事実とは全く別個の事実に属し、勾留状記載の被疑事実は、そのうち短刀不法所持の点につき七月七日起訴されただけで、爾余の傷害、暴行等の点は起訴されていないことが明白であるから、現に被告人が執行を受けている勾留について保釈の請求があつたときは、右七月七日起訴にかかる銃砲刀剣類等所持取締法違反の事実についてのみこれが許否を決すべく、爾余の七月二十四日起訴にかかる窃盗等の事実についてまで考慮すべき限りでないことはいうまでもない。
然るに右七月七日起訴にかかる銃砲刀剣類等所持取締法違反の事実については、前記の如く、原裁判所の第一回公判期日において、被告人は被告事件に対する陳述として公訴事実を自認し、当該あいくちについての司法警察員作成の差押調書謄本(記録八一丁以下)及び当該あいくちそのもの(原裁判所昭和三九年押第六五号の二)の各証拠調が施行され、被告人は裁判官の質問に対し、右あいくちは自分が持つていたものであり、右差押調書謄本の内容については何も述べることはない旨供述しており、以上の審理経過を徴すると、右事実については被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとは認められず、他に保釈の請求を許さない場合として定められた刑事訴訟法第八十九条各号列記の理由があるとも認められないから、本件保釈の請求は同条本文に則りこれを許さなければならないものというべく、本件抗告は理由があるから、同法第四百二十六条第二項により原決定を取り消し、主文のとおり決定する。
(坂間 栗田 有路)